食器洗いをしていたら子供のお茶碗を割ってしまった。
これが半年前なら、新しいお茶碗買おうねーっと言っている所なのだが、
割ってしまったお茶碗は、数ヶ月前に亡くなった僕の父が、
孫(僕の子供)にくれた自作のお茶碗だったのだ。
子供がかなり悲しんでいたので、修理する方法がないかと調べてみた。
すると日本には「金継ぎ(きんつぎ)」という漆(うるし)で接着する技術があって、
割れたお茶碗を修理できる事が分かった。
金継ぎの自作キットも売られていて自分で修理もできるようだ。
ただ、自分で修理する場合、お茶碗がちゃんと直らないのが怖かった。
そこで、職人さんを探して、修理を依頼する事にした。いろんな職人さんがいるようだが、
僕は、京都市の小石原さんという方にお願いした。
修理の品は、郵送も受け付けてくれるようだ。
だけれども、郵送で僕の梱包が悪くて粉々になってしまう事が怖かった。
そこで、自分で持っていく事にした。
小石原さんの工房は、上京区の同志社大学の近くにある。
僕は、車を走らせ、コインパーキングにとめた。
工房の近くにコインパーキングがなかったので、
今出川駅をはさんで反対側の工房まで徒歩10分ぐらいかかる所にとめた。
コインパーキングから工房まで歩いたのだが、
外国からの観光客や、学生が行き交っていて、歩いているだけで何か楽しい。
緩衝材のはいったダンボールをかかえて歩いていった。
工房の近くまで来ると、工房の看板が出ておらず迷った。
20分ほど探し回ったが、結局職人さんに電話して工房の前に出てもらった。
工房は、通り過ぎた長屋の真ん中だった。
工房に入ると、中はいろいろな金継ぎのための道具が置いてあって、京都っぽいなと思った。
椅子に座ると、さっそく割れたお茶碗を見せた。
職人さんは、お茶碗を手にとり、角度を変えてはよく見ていた。
見終わったら、見積もりを紙に書き、
よく見ないと分からない細かなヒビを丁寧に教えてくれて、
僕は、納得して契約をした。
今回は一ヶ月程度かかるとの事で、
今日修理されたものが返ってくると思っていた子供は、
子供はちょっとがっかりしていた。
申し訳ない。
それから一ヶ月がたち、
郵送でお茶碗が戻ってきた。それが10月の初めである。
子供は大変喜んだ。
僕もそれを見てホッとした。
金継ぎされたお茶碗は、以前のように使っている。
ただ以前のように乱雑でなく、丁寧に取り扱っている。
父が手習いで作ったお茶碗は、壊れるまではそうでもなかったのに、
このような事があって、僕の思い出として記憶に留める事となった。
子供の大きさに合わせて作ったのか、
はたまた、ちょうど小さいのをくれたのか、
今となっては分からないのだが、
その小さな金継ぎお茶碗は、子供が大きくなるまで、食卓に並ぶんだと思う。